君と二度目のお別れをします。

「透也……?」

まさかとは思いながら3年前に死んでしまった恋人の名前を呼んでみると、一貴さんが不機嫌そうに顔を顰めた。

片眉がきゅっと下がったその表情に、激しく胸がざわつく。それは、恋人だった透也の機嫌が悪いときの癖だった。

どういうこと……?

3年もかかって、透也への気持ちにはようやく整理がついたところだった。

透也のご両親に結婚の報告をして認めてもらったし、一貴さんとの新生活もまもなく始まろうとしている。

そんなときに、婚約者の一貴さんが元恋人の透也に見えてしまうなんて……。私はまだ、亡くなった恋人への未練を捨て切れていないというのだろうか。

「あの、一貴さん。私……」

「だから、一貴じゃねーって」

まさかの事態に混乱していると、一貴さんが小さく舌打ちしたから驚いた。

大手企業の御曹司として厳格に育てられてきた彼が、舌打ちするところなんて見たことも聞いたこともない。

一貴さんを見上げて大きく目を見開いていると、不機嫌そうに片眉を下げた彼が私の背後のドアを拳でドンッと強く叩きつけた。

< 12 / 125 >

この作品をシェア

pagetop