君と二度目のお別れをします。
「よかった。少し遅くなるけど、夕飯は内覧が終わったあとにどこかで食べようか」
「わかりました」
「今日で新居が決まるといいね」
「そうですね」
「暖乃との生活が楽しみで待ちきれない」
左頬にのせられた副社長の手の甲に手のひらを重ねると、彼の口元が嬉しそうに緩んだ。
私を前にして気の抜けた表情を浮かべる副社長は、ついさっきまで眼鏡をかけてパソコンを睨んでいた人とはまるで別人だ。
仕事熱心で真面目な彼の素顔を間近で見られるのは、私だけの特権かもしれない。そう思うと、なんだか愛おしい気持ちになる。
大手IT企業SENDOソリューションズの副社長を務める千堂 一貴は、私の直属の上司であるのと同時に、結婚を前提にお付き合いしている恋人だ。
3ヶ月後に入籍を予定している私たちは、数ヶ月前から新居探しを始めていて。今夜も仕事のあとに内覧の予定を入れてある。
これまでにもいくつかもの物件を見て回ってきたのだが、今夜見せてもらう部屋が私たちの新居の最有力候補だ。