君と二度目のお別れをします。
家を探し始めたのと同じタイミングで、副社長の一貴さんと彼の秘書である私の婚約は社内的にも正式に発表をされた。
もともと一般社員だった私は、一貴さんとの結婚で玉の輿に乗ることになり。同僚たちに祝福されると同時に羨ましがられた。
けれど、一貴さんとの交際や結婚を決めるまでのあいだに私のなかでたくさんの葛藤があったことを、周囲の人たちは誰も知らない。
一般家庭で育った私が一企業の御曹司である一貴さんの妻としてやっていけるのかという不安ももちろんあったけれど、それ以前に、3年前に事故で亡くした元恋人の存在がずっと心に引っかかっていたからだ。
一貴さんとの交際や結婚は、将来の約束までしていた元恋人や彼の両親のことを裏切る行為のような気がして。
一貴さんの好意を受け入れて、私ひとりだけが幸せになることが許されるだろうか……、とずっと迷っていた。
でも、週末に亡くなった元恋人の実家を訪れて彼の両親に結婚の報告をしたことで、ようやく私の心の中の迷いが消えた。
彼の両親に『幸せになっていい』と背中を押してもらったことで、今は一貴さんとの結婚に前向きな気持ちになれている。
今夜の新居の内覧も、一貴さんとの新生活も楽しみだ。ようやく、心の底からそう思えるようになれた。