ロミオは、愛を奏でる。
「昨日、子供が産まれたんだ」
「えー!
井上さん、おめでとうございます!
じゃあ、今日は早く帰らなきゃ…」
昨日も井上さんと
仕事が終わってから軽く食事した
「まだ病院だから…
…
昨日会ってきたし…
さっきも電話した」
「へー…かわいいですか?
写真見せてください」
井上さんの奥さんが
妊娠してたことも知らなかった
井上さんは普段プライベートの話はしない
いつも私の話を聞いてくれる
リョーちゃんの話とか
リョーちゃんの話とか
リョーちゃんの話
私がどれだけリョーちゃんを好きか
井上さんが1番知ってる
「わあ!かわいい♡」
スマホの写真には
奥さんと赤ちゃんがうつってた
幸せそう
「この眉毛、井上さんと同じですね」
「そぉかな?」
「ほら、ちょっと困ってる
目元は奥さんに似てる
奥さん、美人ですね!」
初めて見た
井上さんの奥さん
「高校の時の同級生だったんだ」
「その時から付き合ってるんですか?」
「うん、そーだね」
「うちのお兄ちゃん達みたい」
「高校の時に妊娠したんだ」
「えー!
…あ、スミマセン
ちょっと、ビックリして…」
「本当に迷ったけど…
お互いの両親とも相談して、堕ろした
…
高校卒業してすぐ籍を入れた
大学を卒業してお互い就職して
それから一緒に住み始めた」
初めて聞く
井上さんのプライベートの話
井上さんの奥さんの話
「ずっと奥さんのこと好きだったんですね」
「うん
結婚してから喧嘩もいっぱいしたけどね…
…
子供がなかなかできないのも
あの時、堕ろしたのが原因かな…って
ずっと引っかかっててさ
ギクシャクした時もあった」
「井上さん、奥さん一筋ですか?」
「奥さんと付き合う前
ちょっと付き合ってた人いたけどね」
井上さんがタバコに火をつけた
「最後の1本…
今日でタバコやめるとこにした」
「赤ちゃんのために?」
「うん、まあね…」
「私も最後にします
井上さんとふたりで食事するの
…
私のくだらない話なんて聞いてないで
赤ちゃんと奥さんの元に
少しでも早く帰ってください」
「くだらなくないよ
…
リョーちゃんて何回聞いたかな…
…
気持ちは伝わった
オレにね
…
本人に伝わるといいね…」
「伝わるかな…
一生伝わらないかも…
…
近くにいないし…
次はいつ帰って来るかもわからないし…」
せっかく井上さんは幸せそうなのに
私は弱気になった
「オレは何もできないけど
また話ぐらいならいつでも聞くよ
…
仕事に支障きたすと
それはオレが困るから…」
「ありがとうございます」
ただ誰かに話を聞いてほしかった
私の好きな人の話
リョーちゃんの話を
誰かに話しても
リョーちゃんには伝わらないのに…