また君と恋する
こぼれたペンキ、志希は『横断幕にペンキがこぼれて』としか言わなかったけど。

自然にこぼれたにしては広く跳ねていて、床に置いていたペンキを誰かが蹴ったりしない限りこんな広範囲に飛び散らない。

たぶん有馬さんがそれをやっちゃったんだ。

「えーっと、葉石さんだっけ」

「あっ、お久しぶりです」

去年、文化祭準備で知り合った美術部の石原先輩と目が合った。

「見て分かると思うけど、今、最悪の状況なんだよね。早瀬君が人手を連れてきてくれたみたいだけど、正直もう無理っつーか」

“無理”

石原先輩の言葉にその場にいた全員がピクリとした。

「はぁ……」

「せっかくここまで頑張ったのに」

口々に漏れるのはため息ともどかしい思い。
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