ライラックの恋

―現在―

*side紫乃*

『終わったぁ~...』

生徒たちの下校後も残って仕事をすることは珍しくない。

今日は、部活動時の怪我とかがなくてよかった。

「紫乃先生!
これから帰るの?また来週ねー!」

職員用の玄関から出た所で、部活動帰りであろう生徒たちに声をかけられる。

『さよなら、雨降ってるから気をつけてね。』

カラフルな傘を差す生徒たちは、雨の中でも傘同様に明るい笑顔を浮かべている。

ふと、自分の持つ淡い紫色の傘を見る。

名前に漢字が入っているからか、紫色が昔から好きだった。

―「よく似合うよ」―

『...――っ!』

?「真田先生?」

突然、現れた思い出に立ちすくんでいると
後ろから声をかけられた。

『宮野、先生。』

宮野葉月《みやのはづき》、英語教師。

歳が近いこともあり親しくしている。

葉「顔色わるいよ?大丈夫?」

『大丈夫、です。
雨のせいで、頭痛くて...、』

葉「偏頭痛?しんどいよね」

心配してくれる彼女に、
罪悪感を抱きながらも笑顔を返した。

『さっき、薬飲んだから大丈夫。』

葉「そっか!
駐車場まで一緒に行こ!」

宮野先生がパンっと広げた傘の深緑色が彩やかで、先程までの暗い気持ちが少し晴れた気がした。


――...

葉「どう?少し慣れてきた?
大変じゃない?今どきの高校生は私たちが思ってる以上に大人びてる所があるし。」

雨の中を歩きながら、宮野先生から尋ねられる。

『そうですね、でも可愛いです。
色んなことに興味があって、素直で...一生懸命で。』

大人びてると思ったら
年相応な子どもの部分もあって...
だけど、自分の力で歩いて行ける。
導く必要はないのだろうけど、
近くで見守っていたいと思う。

葉「そうね、可能性の塊!って感じだもんね。
恋愛相談とか受けたりしない?」


『時々、あります。
守秘義務があるので教えませんよ?』

守秘義務!と言って笑う宮野先生も、
生徒たちからしたらいい意味で気安く相談出来る相手だろうなと思う。

葉「真田先生は?」

『...え?』

葉「彼氏!いるでしょ?
どんな人?」


『...いません。』

葉「うっそ...!
もったいない!そんな美貌で...!」

『ずっと、好きな人はいました。』

勘のいい彼女は、何かを察したのか深くは聞いてこなかった。

駐車場で別れる時も、普段通りで...
不思議とそれに救われた。


『...明日は晴れるといいなぁ。』

車に乗り、ワイパーを作動させ呟く。


明日、会いに行こう。

そう決めて、車を出した。
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