花筏に沈む恋とぬいぐるみ
花はつい次の言葉を逃がしてしまう。
明日は雅と過ごせる最後の1日だ。それにまだ、四十九日の奇の供養のための準備も完璧には終わっていないのだ。残された期間は雅のために使おうと思っていた。
けれど、岡崎の熱い気持ちを聞いてしまうと、断る事も出来ない。
花は、すぐに決断出来ずにいた。
すると、その動揺に気付いた岡崎が心配そうに声を掛けてくれる。
『何かあったのですか?話が出来ない期間で……』
「それは……」
『もしかして、以前お話してくださった乙瀬さんを必要としてくださっている人、に関わる事ではないですか?』
「はい。その人はあと少ししか時間がないのです。だから、傍にいたいと思ってしまうんです。けど、お店にも戻ってみんなにお礼を伝えたいんです。だから、明日行かなければいけないって思っているんです。けど……」
『………私はいつでも店にいます。そして、今のところ限られた時間があるわけではありません。理由は、戻ってきてからお話してください。お店にこれるようになったらいつでも連絡してください』
「岡崎さん、それは………」
『戻ってきたら、沢山働いて貰いますので。覚悟しておいてください』
「………ありがとうございますっ!」
何を大切にしなければいけないか。
生きているかぎり、毎日が選択していかなければいけない。
こうやって大きな決断をする時もある。けれど、迷う必要などないのだ。
今は、雅との時間が何よりも大切なのだから。
花を助け、導き、人の温かさを改めて教えてくれた人なのだ。
雅と凛に会ったから、こうやってイキイキと生きて、自分の好きを見つけられたのだ。
そして、自分を必要としてくれる人達にもあえて、それを素直に受け止められるようになれたのだから。
そして、何よりも花自身が雅を大好きで大切な人なのだから。
安心して、笑顔で、この世を過ごして欲しいと強く思うのだ。最後の最後まで、不安を感じる事なく。
花は通話を終わらせた後、パチンッと両手で頬を強く包む。
今は仕事の事は考えない。全ては雅のために。
何が何でも成功させる。
その気持ちを胸に、花は夜遅くまで作業を続けたのだった。