花筏に沈む恋とぬいぐるみ
ふわふわとした雪のようや真っ白なテディベア。
軽そうでいて、ずっしりと重い。赤ちゃんの重さ。雅の祖父が作ったものと同じようで、違う。
花は光る宝石の瞳を見つめながら、微笑む。「よろしくね、フィオ」と声を掛けた後に自分の胸の中にしまい込んだ。
父が遺した宝石と、雅が最後に作ったテディベア。
このフィオには特別な想いが沢山込められているのだ。思い出と気持ちと夢が沢山。
だから、重いのだ。
「出会ったときはとってもクールでかっこいいイメージを持ったから黒が似合うなって思ったんだ。だけど、一緒に過ごしてからわかったんだ。花ちゃんはとても可愛らしい女の子なんだって。俺の大好きな真っ白なスターチスの花のように可愛いってね。だから、白い子にしたんだ」
「………白いスターチス……の花……」
それは今日の朝、雅から教えてもらった花の名前。
雅にとって、この花浜匙にとって大切な花。
それをイメージしてくれた。花のために。
雅は出会ってからずっとずっと考えていてくれたのだろう。花の事を、新しいフィオについて、を。
そして、独り花浜匙に残してしまう凛を。
だから、このテディベアは花浜匙と花、そして凛へのメッセージなのだろう。
雅、最後の作品なのだから。
「雅さん、絶対に大切にする……こんな素敵なフィオをありがとう」
「うん。大切にしてね。洋服は凛に作ってもらってね。図案は見せてもらってるけど、とっても可愛いよ。それも楽しみにしておいて」
「あぁ……今までで1番のテディベアに負けないものを作ってやる」
「………楽しみにしてるよ」
得意気に微笑み、雅はホッとした表情を見せながら笑った。
今、涙を見せてはダメだ。やることがあるのだから。花はフィオを抱きしめながら、歯をくいしばり、涙を耐える。
きっと、雅には気づかれているだろうが、彼は変わらずにスターチスの花ように小さく微笑みを見せてくれる。
「そろそろ夜になるね。最後の場所は、やっぱりこの店がいいから。それだけは、伝えておくね」
雅がいう最後の場所というのは、四十九日の奇を終わらせる時の事だろう。魂が乗り移ったものを燃やし成仏させる。
その場所が花浜匙がいいという事なのだろう。
凛は「わかった」と小さく頷いた。
工房にはもう夕日の明るさは見られず、薄暗くなってきた。雅は椅子から立ち上がり、部屋の電気をつける。
それが夜を告げる合図だった。