花筏に沈む恋とぬいぐるみ
まだ夜中までは時間がある。
花はつい大きい声を出してしまった。すると、雅はゆっくりと頷いた。
「もう十分堪能したよ。楽しい四十九日だった。………それにこれ以上いると別れたくなくなっちゃいそうだから」
「………っっ」
もうずっと前から離れたくなかったよ。
そう言いたかったけれど、それを言えば雅を困らせるだけ。花はフィオを抱きしめながらうつ向くしかなかった。
「じゃあ、行くぞ」
「あぁ。頼む……」
雅と宮は立ち上がり、店から出ていく。それを、花は震える手をぬいぐるみで隠しながら後に続いた。
花浜匙の店の裏手には、小さな庭があった。辺りはすっかり暗くなっているが、工房と台所の窓からの光で庭の様子はよく伺えた。
洗濯物が干せるスペースと、塀を囲むように木が植えられており、庭の端に法には洗濯物が干せるスペースがある。地面には芝生。そして、小さいながらも花壇がある。が、今はそこには何も植えられていなく、雑草が生えてきている。
その中央に雅と凛が立っており、2人は工房の窓の光りをずっと見つめていた。
闇の中に浮かぶ2人は、どこかに行ってしまいそうなほど儚げで、花は思わず彼らに向かって駆け寄ってしまう。
すると、雅はゆっくりとこちらの方を向いて迎えてくれる。
そして、ポンッと頭を撫でる。
「……花ちゃん。花浜匙に来てくれて、そして俺たちに出会ってくれてありがとう。花ちゃんと出会えてからは、今までの生活がよりキラキラとしたように思えたんだ。死んでから出会える人がいるなんて考えた事もなかったけど。四十九日の奇で、花ちゃんに出会えたことが何よりも俺は幸せだった、そう思うんだ……」
「……私も!雅さん達と出会っていなかったら、笑えていなかった、お父様と仲直りなんて出来なかったし、好きな事さえも気づかないままだったかもしれない。雅さんに優しくしてもらえたから、私はこうやって今、毎日が楽しいって思えてるの。私、雅さんがとっても大切なの、だから………」
「うん、……うん。大丈夫だよ」