花筏に沈む恋とぬいぐるみ
焦って早口になってしまう花を安心させようと、しっかりと瞳を見て、頷きながら話を聞いてくれる。
必死に我慢していた瞳の熱も、最後の言葉を発した瞬間に堪えきれなくなってしまった。
「雅さんがいなくなるのは、寂しい。ねぇ、……死んでるなんて嘘だよね?凛みたいに、魂が違うところにいっているだけでしょ?……いなくなっちゃうなんて、信じられないよ。雅さん……」
「………花ちゃん」
泣きじゃくりながら、悲しみのあまり現実逃避な言葉が出てしまう。けれど、それはすべて本心。声に出して現実になるならばなってほしい。
いかないでと、引き留めたら、少しでもここに居てくれるのではないか。
そんなありえない淡い、夢のような願い。
その花の願いを雅はゆっくりと包んでくれる。
彼の冷たい肌が触れられる。雅は純白のテディベアごと花を優しく抱きしめていた。
「ごめんね………。俺はもう死んでいるし、ここには残れないんだ。でも、花ちゃんの気持ちは嬉しい。……教えてくれて、ありがとう」
「雅さん……いや………」
「凛をよろしくね。作業を始めると食事をしないで夢中になったり、ぶっきらぼうだからお客様を困らせたりするかもしれないから、少しサポートして欲しいな。でも、one sinの仕事も応援してる。人の縁を大切にして、今のままの素敵な花ちゃんでいてね…………。ずっとずっと見守ってる……」
「……っ……」
みっともなく泣き続ける花を、なだめながらくるりと顔を動かす。その視線の先には凛がいる。
ただただ無言で雅を見つめている。
「凛、今までありがとう。店の事を頼むよ。そして、花ちゃんも。おまえに任せておけば安心出来る。……後は自由にやってほしい。凛らしい店にして」
「あぁ………絶対に守って見せる」
「うん。それを聞いて、安心したよ。……凛には沢山伝えたいことあるけど、やっぱりありがとうに尽きるよ。……四十九日の奇で迷惑をかけたけど、本当に49日は貴重で幸せな時間だったよ。もう、やり残したことなんてない……だから……」
満足げに目を瞑り、そう呟いた雅だが、それと同時に凛は動き出した。
雅に飛びかかり、大声で叫び始めたのだ。