花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「やり残した事はない!?嘘だろっ!やりたいこといっぱいあっただろ?店の事だって、テディベアの事も、お前自身の事も、夢も………っ!最後まで嘘つくなよ」
「っっ……そんな事言ったって、俺にはあと数時間しか時間がないんだ、もう満足したって言うしかないだろう」
雅の声が震えている。
最後の最後に、凛が本音をぶつけたことで、雅の決意が我慢した事が揺らいだのだろう。
瞳もぐらぐらと揺れて、今にも泣き出しそうだった。
花から体を離して、凛が降り立った場所に膝をついて座り込む。
どうして、最後の瞬間にそんな事を言うのか。そんな切ない表情だった。
「俺がお前に変わって必ず叶えてやる」
「………凛……」
「だから、俺には嘘なんてつくなよ!やりたかった事言えよ!怖いなら怖いって、死にたくないなら死にたくなかったって……言ってくれよ。俺にぐらいかっこつけなくたっていいだろ?」
「………くっ………」
雅の顔が初めて歪んだ。
花は彼の笑顔と真剣な表情しか見たことがなかったのだ。悲しんでいたとしても、それは誰かを思っての事。自分の事では、不安も悲しみも見せる事はなかった。
そんな彼の瞳からは大粒の涙があふれ、頬をつたって流れ落ちていく。涙の雨を、凛は受け止めながらもじっと雅の言葉を待った。
静かな夜。
花には、雅の吐息しか聞こえてこない。
彼から聞こえてくる鼓動は、雅のものではない。それなのに、やはり生きていると思えてしまうのだ。
残りの時間を十分に使うかのように、雅の重い唇がゆっくりと動き出した。