花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「…………やりたかった事なんていっぱいある。……花浜匙をもっといろんな人に知ってもらいたかったし、店だって綺麗にして大きくしたかった。本場の国へ行ってみたかったよ。……それに、結婚だってしてみたかったんだよ。……後は」
「あぁ。後は……?」
「凛ともっともっとテディベア作っていたかった……。花ちゃんと3人で作り上げてみたかったんだ……。もっとテディベア作りたかった………っっ!」
雅の魂からの叫びが、涙と共に凛に降り注がれた。
死んでいたって、四十九日の奇で魂だけだとしても、それは変わらずに人間なのだ。
体がなくても気持ちは感情は変わることはない。
心残りや悔しさ、不安は沢山あるのだ。
雅は必死に隠し通そうとしたのだろう。大人が故に、そして凛や花を心配させまいと。ずっとずっと笑顔を作ってきたのだろう。
それが、凛にとっては気がかりだったのだろう。
そして悔しかったのかもしれない。
自分に本当の気持ちを伝えてくれない雅を知っていたのだろうから……。
言葉は少し厳しくても、そこには雅への深いふかい愛情がある。それは雅も花もわかる。
だからこそ、涙が溢れるのだ。
「………わかったよ。俺がそれ全部やる。叶えてやる。だから、俺が雅の所に行くまで見てろよ。そして、笑っててくれよ。牛丼食べてさ」
「………早くこっちに来たら怒るからな」
雅は、ぐじゃぐじゃな顔のまま凛を抱き上げると、そのまま強く強く抱きしめた。
それはとても長い時間だった。凛との別れを惜しむように、凛の魂が入った、少し不細工なテディベアを抱きしめて泣き続けたのだった。