花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「っっ………!!」
唐突に目が開く。
ハーッと大きな息を吐くと、少しずつ今の状況が頭の中に入ってくる。
目の前にあるのは、いつもの白い天井。自分の部屋だ。どうやら昔の夢を見てきたようだ。
嫌な汗をかいてしまい、凛の顔には髪がはりついている。かなり不愉快だ。
それらを乱雑に手でよけながら、フッと横を見る。と、そこには安心しきった表情で眠る花の姿があった。驚き、声を出しそうになるが何とか堪え、寝る前の事を思い出す。そういえば、雅を送った後に2人で泣きまくり、疲れて寝てしまったような気がした。
「……いろいろ巻き込んで悪かった」
凛は寝ている彼女を起こさないように優しく花の髪を撫でる。
花との出会いは突然だった。
雅は何故か彼女を気に入り、優しく接していた。四十九日しかないというのに、大事な時間を使って花と一緒に過ごす理由などあるのだろうか。凛は内心そんな事を思っていた。四十九日のうちに、雅からぬいぐるみの作り方を教えてもらわなければいけなかったし、雅を無事に成仏させる方法もわからなかったからだ。
けれど、花を近くで見ていくうちにそんな考えはいつの間にかなくなっていた。
居るのが当たり前になったし、居ないと不思議な気持ちになる。
一生懸命で、少し泣き虫だけど人を物を大切にする、レース編みが好きな女の子。
そして、雅の事を必死になって考えてくれた。
昔からここに居るようにさえ思えてしまう。それぐらいに店にも雅や凛にも空気感が似ている、不思議な存在だった。そんな彼女の雰囲気を、雅は出会ってすぐに感じ取っていたのかもしれない。
それに、雅との別れの日が近づく度に思う事があった。
花が居てくれてよかった、と。