花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「そういえば雅が来てたジャケットに、これが入ってたんだ。きっと一緒に持っていこうとして、忘れてしまったんだろうな」
「あ、これは私が贈った……」
凛が指さした先には、アイスティーが入ったグラスがある。が、彼が話しているのはその下に敷かれたコースターだった。花がレース編みを見せた時にクマ様にプレゼントしたのだが、雅も欲しいと言ってくれたのでその後に編んだのだ。白いクマの顔の形をしたコースター。今は、紅茶の光りで少し茶色になっておりますますテディベアのように見える。
「……ねぇ、凛。私、明日からone sinに戻ろうと思うんだ」
「そうか」
昨日の事があって、凛は気が伏せっているはずだ。
それなのに、今日も店を開けている。それは、雅との約束を果たすために他ならない。立ち止まっている暇などないのだろう。その証拠に、客がいない店内で、沢山の書類を取り出して、何か調べものをしていたようで、カウンターには沢山のファイルが出されていた。
そして、ずっと雅に任せていたテディベア作りも、凛が1人でやらなければいけないのだ。
凛には沢山の仕事とプレッシャーがのしかかってくるはずだ。
けれど、彼ならばやりきれるのだろう。あんなにも雅と店、そしてテディベアを愛しているのだから。
凛も頑張っているのだから、自分もやれることからやるしかないのだ。
自分だって雅と約束をしたのだ。凛を守る、と。