花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「………私の父が亡くなったのは3か月前なのです。最近、このクマのぬいぐるみを発見したんです」
「随分、時間がかかったんだね」
「実家から引っ越したのですが、その荷物もほとんど開けないままに過ごしていて。最近、段ボールを開けたら、私が入れた覚えのないこのぬいぐるみが入っていたのです」
「……なるほど。じゃあ、そのぬいぐるみには君のお父さんの魂が入っていて、四十九日で成仏できずにまだ魂は入ったまま。そして、自分で君の荷物に入った、と」
「それは、わからないのですが。考えられるのは、その通りの事です。ですが、私はこれが動いたり話したりする姿は見た事がないのです」
花の荷物に触れたのは花自身だけだった。
そうなると、宝石の瞳のテディベアは自分で段ボールに入り紛れたという事になる。それしかありえない、そう思っていた。
「十三師に見ていただき、このぬいぐるみには魂が入っていると言われたので、それは確かなはずです」
十三師。
それは特別な力を持つ人間の仕事だった。
四十九日の奇の魂を肉眼で見れる人間は稀だ。そして、動かない四十九の奇の魂もある。そうなると、普通の人間は気づかない事があるのだ。大体は「ここにいるような気がする」という曖昧な感覚でその魂と短い時間を過ごし供養する。けれど、全くわからない人や、どうしても四十九の奇で魂と関わりたいと思う人間もいる。
そういった人が頼るのが、十三師だった。
十三師は、その魂を見る力を用いて魂がどこにいるのかを視る仕事だった。