花筏に沈む恋とぬいぐるみ
お金以外に何が欲しいのだろうか?
お金ほど、生きていく上でいくらあっても無駄にならず、取引をする上でもトラブルなく解決する方法だ。気持ちだって、お金で変えてしまう事があるのだから。
それに、それ以外のモノは、裏切られる。言葉の通り裏をもってるのだから。
彼の言葉の続きが予想出来ないまま、不思議な気持ちで彼の提示する条件を知りたいと思った。が、それは花が絶対に思いつかないものだった。
「君の事を花ちゃんって呼んでいいかな?」
「え………」
「俺の事は凛って呼んでいいから。呼び捨てだと呼びにくなら、凛さんでもいいよ。あと、会った時みたいに気軽に話して。背筋を伸ばして、全身完璧にして着飾ろうとしなくていいんだ」
「…………」
「あ、それとやっぱり君のテディベアは作らせてもらいたいかな。絶対可愛いのが出来るよ」
「依頼料は1つだけなので。そちらはお断りします」
「じゃあ、凛って呼んで欲しいな。花ちゃん?」
どうして話し方や呼び方が、調べものの依頼料になるのか。
この男にとって何の得にあるわけでもない。花は、彼の考えが全く理解出来なかった。
けれど、お金も払わず、このテディベアの事を調べられるのだから。
仕方がないと思い、彼の名前を呼ぼうと口を開く。ただ名前を呼ぶだけだから簡単だと思っていたが、これはどうも難しい。気恥ずかしいのだ。
人の呼び方を変えたり、話し方を変えると言うのは難しいものだと花は初めて知った。
「では、………り、凛さん」
「うん、何かな?花ちゃん?」
「このテディベアの事、よろしく」
「わかった!俺に任せておいて」
名前を呼ぶだけで恥ずかしさで顔が赤くなる。
そして、やけに疲れを感じてしまうが、それとは正反対に凛は満足そうに微笑んで拳をつくってやる気満々そうにしていたのだった。