花筏に沈む恋とぬいぐるみ
6話「穏やかで驚きの朝」
6話「穏やかで驚きの朝」
それから、凛がパラパラと伝票を捲る音を聞きながら、夜中のおしゃべりが始まった。
少し肌寒い春の夜だったけれど、石油ストーブの温かさを感じ、花は途中ウトウトしてしまった。
「one sinで働くなんてすごいよ」
「そこのスタッフさんと知り合いだったから。働かないかって言われて……」
「お父さんを亡くしたら、ショックも大きいだろうし、今はゆっくり休むといいよ」
「…………うん」
花は今は仕事をしていないが、もう少しで高級ブランドであるone sinで働くことになっていた。「高級ブランドといえば?」と聞かれると必ず名前が出てくる、国内だけではなく全世界で有名なブランドだった。そこで働くとなれば優秀な人材、キャリアを求められる事が有名でもあった。そのため、ファッション業界ではone sinで働く事がある種のステータスになっていた。地位を求めていたわけではないし、one sinが好きというわけではない花にとって申し訳なくもあった。
けれど、あんな事があった花を雇ってくれるところはなかなかないはずなのだから。
「テディベアっていうのは、あの有名なドイツののシュタイフ社やイギリスのメリーソート社のものだけをさすんじゃなくて、今はクマのぬいぐるみ全般をテディベアと呼んでいるね」
「そう、ですね……」
「デティというのは、あるクマを助けた大統領の愛称から来てるらしくて、それを知った人がクマのぬいぐるみをつくって『テディベア』と名付けた事が由来だと言われているらしいよ」
「………」
「………ん?寝ちゃったか……無理もない。川に飛び込むし、知らない人の家に来ていて緊張してるだろうし、疲れたんだろうね」