花筏に沈む恋とぬいぐるみ
花の体は小刻みに震えていた。
自分がそれぐらいに怒っていたのだとテディベアを抱く手を見て気づいた。テディベアを抱いても怒りがおさまる事はなく、宝石の瞳のテディベアをキッと睨みつけると、それを乱雑に掴んだ。
「こんなのもの、川に投げ捨ててしまえばっ!」
父の魂が入っているテディベアを掴んだ右手を振り上げた瞬間。凛は悲しんだ表情が視線に入ってくる。それが見たくなくて、ギュッと目を瞑った。けれど、この怒りはもうどうにもならない。ずっとずっと我慢してたもの。吐き出せなかった。苦しかった。だから、少しでも楽になりたい。
テディベアを床に叩きつけたい衝動にかられ、は花はそれをもう自分で止められなかった。
「やめておけ」
そんな刹那。
突然、花の聞いたことがない声が店内に響いた。
低いけれど澄んだ、綺麗な声。
その声の続きがあるのではないか、花は動きを止めてしまった。
誰だろうと、周囲を見る。
けれど、店に誰か来たわけでも、クマのぬいぐるみに魂を宿した父親がようやくしゃべったわけでもないようだ。
が、すぐにその声の主の正体を花は知る事になる。
自分の腕で抱きしめていた凛のテディベアが動き出したのだ。
「さっきから苦しい。持つならもう少し優しくしてくれ」
「な、な、クマがしゃべったッ!!」