花筏に沈む恋とぬいぐるみ
喧嘩を初めてしまった凛は2人の仲裁をした後に、皆に一度座って落ち着こうと提案してくれた。
そして台所からアイスティーを準備して出してくれた、が2人分しかない。もちろん、凛と花のものだ。テディベアは食事は出来ない。けれど、それでも空腹など感じないという。死んでいるのだから、確かにそうかもしれない。
この店に来て何度目かのアイスティーを一口飲んだ。
すっかりお気に入りになっていた味。あっさりとした甘さと紅茶の香りで、花は落ち着きを取り戻していた。
花の目の前には凛が座り、その目の前のテーブルには父親のテディベア。花のソファには、隣に何故かクマ様も一緒だ。何故、この男が隣に座ってのか、少し不服だったものの、そこはグッと我慢した。
「乙瀬さん、あなたが四十九日の奇でテディベアに魂を宿したのはきっと理由があるはずですよね。それを、ハナちゃんにも伝えてあげてはいかがですか?」
「別にいい……」
「花ちゃんの気持ちもお父さんに話してみればいいんだ。どんなにつらい事があったのか、どうして欲しかったのか。こうやって戻って来たのは文字通りきっと奇跡なんだから」
「………」
「花浜匙店主さんもご存じの通り、私は会社の金を横領しました。言い訳に聞こえるかもしれないし、実際に言い訳なのですが、それには理由がありました」
ポツリポツリと花の父親は話を始める。
丸まった背中はどこか哀愁を感じられるが、今の花はどうとでもいい事だった。むしろ、話など聞きたくないぐらいだった。
「始めは目にかけていた部下が顧客の口座から不正に金を引き出しているのに気づいたのです。そこで、私はその部下をしっかし処罰してお客様に謝罪するべきでした。けれど、大切にしていたからこそ、私はその部下を守ってしまいったのです。それが間違えでした。私はポケットマネーでその引き出した金をすぐに口座に戻し、引き出した事をなかった事にしました。幸い貯蓄用だったのかそのお客様にバレることはなかった。けれども、味を占めた部下は同じ事を繰り返した。そのうちに私もお金を払う事や誤魔化す事が難しくなり、会社の金をどうにか使って彼の罪のお金を生み出していきました。けれど、それもすぐにばれました。真っ先に疑われたのはもちろん部下です。金遣いが荒くなったのを同僚は不審に思い、調べたのでしょう。そうしているうちに、私の行動もバレました。そして、それは報道機関にも漏れて事件となります。そこからはご存じの通りだと思います。社内では部下を守るためというのが周知されていたようで哀れみの目で見られたのか、幸い社長の座を失っても雑用などをこなす仕事はもらえました。けれど、世間の目は違う。部下よりも社長である私の方がニュースで大きく取り上げられたのです。もちろん、私の悪意のある部分だけが報道され、私は立派な罪人になりました。どんな理由があったとしても人様や会社のお金を使ったのですから仕方がないですね」
「それでは、乙瀬さんの死因は………」