花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「私は妻を愛していた。忙しくてなかなか時間が取れなかったが、妻を愛し、花だって大切にしてきたつもりだった。自分のために、綺麗になろうと必死に自分磨きをしている妻を見て、それさえも嬉しいと思っていたよ。愛してくれているんだってね。けれど、私には言葉も態度も足りなかったようだね。お恥ずかしい話ですが、妻とは別居していまして、実家に帰っています。会いに行こうとしたのですが、私は罪を犯してしまった。だから、会いにいけなかった」
「じゃあ、このテディベアは……」
「店主さんがオーダー表を見ておっしゃていた通りです。花の20歳の誕生日に妻にプレゼントする予定でした。今まで忙しい私のために立派に花を育ててくれた。私の自慢の娘だ。だから、その感謝を伝えようとずっと準備をしてきました。けれど、それも渡せなかった。汚れたお金ではない、自分が稼いだお金でプレゼントを買えたのは、きっとこれが最後でしょう。このテディベアをオーダーした数年後に部下の不正に気づいたので。妻にこれを渡せなかったのが心残りだったのでしょう」
テディベアの宝石が朝露に濡れたように光る。
どうして濡れているのか。そんなのは考えなくてもわかる。
言葉に詰まる2人を凛とクマ様は黙って見守っている。