花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 早く自分一人で生きていかなければ。


 そんな風に思いながらも、どうしても父親の犯罪が信じられなかった。
 始めは何かの嘘だ、誰かに騙されたのだ。
 そんな風に思っていた。

 直接話を聞きたかった。
 けれど、ほとんど会えず、会えてと誰かの監視付きでなかなか話せなかったのだ。
 
 言い訳でもいいから話して欲しかった。
 すがりついて、怒って、泣いて……父の顔を見て、そして許したかった。



 それなのに父は何も言わずに天にいってしまった。
 空虚感と寂しさと切なさと孤独感が、花の感情を怒りへと変えてしまった。
 罵倒と軽蔑の視線、無視に陰湿ないやがらせが、花から悲しい気持ちを消し去ってしまった。


 「………話してくれないとわからないよ!私だって、お父様のこと信じたかったのに、みんな悪者だって言うじゃない。お母様にだってそうよ。ちゃんと愛してるって言ってあげればよかったのに!……テディベアになって戻ってくる前に、ちゃんと話してよ。………病気の事だって何も言わないで」
 「ごめん、花……」
 「お父様はいつも自分だけで抱えてるわ!家族なのに甘えてくれない。そう、お母様だって甘えて欲しかったのよ!……私だって、お父様を信じて、許したかったのに勝手にいなくならないで……」


 父の顔がボヤけてみてる。
 我慢し続けていた涙が瞳いっぱいに溜まったからだろう。ポタポタと大粒の涙が溢れるし、口元も歪んでしまう。悲しみが溢れて我慢など出来なかった。
 人に見せるような泣き顔ではないだろう。
 けれど、今まで我慢してきた糸が切れたのだ。
 もう抑えられる方法などない。



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