花筏に沈む恋とぬいぐるみ
すると、手に人肌とは違う感触を感じる。ふわりとした毛と何故かほんのり温かい。花はぼやけたままの視界のまま自分の右手を見つめた。
すると、そこには少し歪な形をしたぬいぐるみの手があった。クマ様だった。
ただ手を重ねているだけなのに、何故か包まれている。
本当は強がって「離して」と言いたかった。
それなのに、それが出来ない。
自分はそれほどにまで弱っているという事なのだろうか。それとも、このクマ様だからなのか。
花にとってクマ様は出会った時から不思議な魅力を感じてしまうのだ。
クマ様のぬくもりを感じながらしばらくの間、涙が止まるまで手を包んでくれたのだった。
花が落ち着きを取り戻したころ。
凛がゆっくりと話始めた。何やらオーダー表で気になる事があったらしい。
「乙瀬さん。オーダー表にあった話を少しお聞きしてもよろしいですか?」
「はい?何でしょうか」
「そのテディベアの宝石には意味があるのですか?それと名前にも」
「名前?オーダーで名前もつけるなんて珍しいな」
「瞳の宝石は、妻と花の誕生石で出来ています。私が同じぐらいの大きさの粒のものを買って前の店主にお渡しして瞳にしてもらいました。そして、このテディベアの名前はフィオ。それも私と前店主さんと考えたものです」
「意味は何ですか?」
「イタリア語のフィオーレから来ています。フィオーレは花という意味です」
「………」
「花。私と、妻でつけた名前です。大好きな娘。そんな愛しい花を悲しませてしまった。何度謝ってもう遅いだろう。けれど、私には永遠の時がある。だから、何度でも伝えるよ。申し訳なかった、花」
「お父様………」
「寂しい思いをしてさせて悪かった。今からずっと一緒にいる。だから、泣かないでおくれ」
「………」