花筏に沈む恋とぬいぐるみ
夜になると、4人は移動を始める。
凛が運転する車に乗ってある場所へと向かっているのだ。いつもならば寝ている時間だが、寝れるはずもない。後部座席の中央にちょこんと座るテディベアを見つめると、切なさが込み上げてくる。
もう会えるはずもない人だと思っていた。
四十九日の奇がなければ、こうやって並んで座ることも、泣いて怒ることも、許すことも、父に自慢してもらうこともなかった。
そう思うと、人より多く別れる時間を過ごせた事は幸せだったのだろう。
けれど、まだ心残りがあった。
「………お父様。本当にお母様に会わなくていいの?」
「あぁ。こんな姿になってしまったと聞いたらビックリして倒れてしまうよ」
わざと冗談を言って場の雰囲気を明るくする父。
本当に母を愛していたのに、母は父の葬式にも現れなかった。それぐらいに、母は傷ついているのかもしれない。だからこそ、母に本当の事を伝えて欲しかった。
「……電話でもいいです。少しだけでも話しませんか?きっとお父様の口から話を聞けばわかってくださいます」
「ありがとう、花。でも、大丈夫だよ。私は1度は死んだ人間なんだ。だから、もういいんだ」
「お父様……」
「でも花に1つだけ頼んでいいかな?」
「……なんなにと」
「目的地に着いたら話をするよ」
横にいるのはテディベア。
けれど、花の目に映るのは父親そのものになっている。それぐらいに父の声は優しく、昔の姿を思い出されるものになっていた。
大好きな父。
死んでしまった、2度と会えないと思っていた父。
四十九日の奇で再会できた。
それは幸運で、とても尊い時間で、ありがたいもの。
けれど、花はある感情が別に芽生えてきていた。