花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 フィオが無くなることを寂しがった父にそう声を掛けたのは凛ではなくクマ様だった。
 俺達という事は、クマ様と凛が作るという事なのだろう。クマ様もテディベアも作れるのだろうか。
 クマ様の言葉が気になりつつも、父が自分に渡してきた宝石を見つめていると寂しさが込み上げてくる。
 涙は気づいたら流れていた。


 「凛さん、クマ様。今回はご迷惑をおかけしてすみませんでした。そして、花の事をぜひこれからもよろしくお願いします。私の犯罪を知っていても軽蔑する事もなく、花は花として扱ってくれた。それは、この子にとって今は必要な存在なのです。けれど、偏見の目はやはり多い。だから、花がお2人に会えた事は、偶然ではないように思うのです。なので、これからも花と仲良くしてやってください」
 

 そう言う砂浜に置いてあったマッチの箱に手を掛けようとする。
 もちろん、テディベアの手では火をつける事などできない。
 花は震える手でそれを受け取り、火を灯し蝋燭に移す。

 4人の周りだけ弱弱しい火で光りが揺れる。
 先程までうるさい程だった波音も風の音も今は全く耳に入らない。
 聞こえるのは、激しい自分の鼓動だけだった。


 「花……頼むよ」
 「………はい」


 いやだ。
 まだ一緒に居たい。
 お別れなんかしたくない。
 ずっと一緒に居て。

 けれど、それは出来ないのだとわかっている。
 父の事を考えれば、早くに楽になって欲しいのだから。

 涙を堪え、嗚咽で体を震わせながら、ゆっくりと蝋燭の火をテディベアに落とす。
 瞳のないテディベアなのに、何故か頬んでいるように見える。


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