花筏に沈む恋とぬいぐるみ
火の先端が微かにテディベアの毛に付いた瞬間、ボウッとテディベアに燃え広がりあっという間に火に包まれる。
「いやッ!待って………っっ!」
思わず手を伸ばし、火を消そうとする。
けれど、それを凛が後ろから抱きしめて止めてしまう。
「花、ありがとう。話せてよかった。そして、許してくれて、ありがとう」
「離して、お父様が燃えちゃうッ!いなくなっちゃう」
「花ちゃんっ」
「お父様!酷い事を言ってごめんなさい。本当はあんな事思ってなかった。ずっとずっとお父様が大切だったんです。だから、お父様、私を置いていかないで」
「私はいつでもお母さんと花を見守ってる」
「いや、そんな最後みたいな言葉を言わないでくださいッ」
「私を幸せにしてくれてありがとう。だから、幸せになるんだ。今度は、花が………」
四十九日の奇。
その時間は長いのに、終わりの瞬間はあっという間だった。
灰も残らずに最後の日が天に上がり、風に吹かれて消える。残された蝋燭の火もいつの間にか消えていた。
「………お父様、いなくならないでよ………」
「………花ちゃん。お父さんは、しっかり天に昇って行ったはずだよ」
「幸せになるんじゃない。私はもう幸せだったんだよ」
「その言葉も気持ちも伝わってる……」
凛とクマ様の言葉に、息が詰まる。
悲しみが自分で抑えられなくなり、クマ様を抱きしめ、凛に体を預けたまま、子どものように夜の海で泣いた。
四十九日の奇は奇跡。
幸せで尊い時間。
けれど、辛い別れを2度も経験しなければいけない。
花はそれを見思って知ったのだった。