花筏に沈む恋とぬいぐるみ
12話「新しい一歩」
12話「新しい一歩」
どんなに悲しい事があっても日常は続く。
朝はやって来るし、お腹は空くし、眠くなる。
目が赤くなって瞼が晴れても、いつかは涙は止まる。
「この度は大変お世話になりました。今度お邪魔する時はお礼させてください」
「そんなにかしこまらなくていいのに……」
「お礼はレース編みのドレスでいい」
「クマ様はぬかりないんだから」
凛の腕に抱かれたクマ様はそう言うと、凛は苦笑しながらも「確かに見たいかも」とその言葉に賛成をする。
この2人はやはり仲がようだ。
そんな彼らの輪の中に自分もいたのかと思うと不思議だ。
約2日前には出会っていなかった凛とクマ様。そんな関係なのに、今は寂しさを感じる。
けれど、いつまでも彼らの好意に甘えるわけにはいけないのだ。
「やってみるけど、もう少しで仕事がスタートするかも遅くなるかも」
「そっか。one sinのお仕事始まるんだね。新社会人、頑張って」
「まぁ、ほどほどに頑張れ」
「ありがとう。凛さん、クマ様」
笑顔が眩しい凛と、ぶっきらぼうのクマ様。
そんな2人を見ていると思わず笑みが零れる。すぐには笑えないと思っていたが、すんなりと笑えた。
こうやって自然に笑顔になれるなら、大丈夫。乗り越えられる。花はそんな気がした。
「あ、そうだった。凛さんに渡しておきたいものがあって」
「ん?何かな?」
花はワンピースのポケットに手を突っ込み、それをつかみ取ると凛に向けて手を伸ばした。
凛は不思議そうにしながらも、手を伸ばして手のひらを上にする。そこに花はあるものをぽとんッと落とした。
2色の光る石。宝石だ。