花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「こんな不細工な練習用のテディベアでも、俺は可愛いだろ?このドレスも似合ってるだろ?」
「え、うん。似合ってる」
「本当に可愛いよー!クマ様の洋服、ずっとそれにしたら?」
「まぁ、それはちょっと、な……」
さすがにドレスで過ごすのはイヤな様子で返事を渋る。
そんなクマ様を見つめ、花は気になった事を彼らに質問してみる事にした。
「不細工なテディベアって……もしかして、凛さんが作ったものなの?」
「あぁ……そうだよ。俺が初めて作ったのがクマ様なんだよ。確かにバランスは悪いけど、上手に出来てるだろ?」
「………だから、大切なものなの?」
つい、そんな事を口にしてしまいハッとする。
大切なものだから、魂が宿ったのか。そう聞いているようなものだ。花が気づいた時には、凛は微笑みながらも少しもの悲しげにクマ様を見つめていた。
「そうだよ。とても、大切なものだよ。……だから」
「凛っ」
だから、に続く言葉はクマ様によって遮られる。クマ様の瞳がキラリと鋭く光り怒っているように見えた。そんなクマ様を凛は困り顔のまま眉を下げて微笑んで見ていた。
「……花ちゃんに、今まで作った洋服の資料を貸してあげるね。今作業場から持ってくるから待ってて」
「……わかった」
凛はすぐにいつもの穏やかな表情に戻り、そのまま作業場へと小走りで向かった。
するとクマ様は「脱ぐから手伝え」と言って後ろを向いた。
それは、「もうその話はおしまい」と言われているようで、花はそれ以上何も言えずにレース編みのドレスに手を伸ばしたのだった。