花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「君を雇うことを決めたのは、自分の責任であるし、花さんが責任を感じる事はないから、そこは気にしないで欲しい」
「………はい。ありがとうございます」
前置きは、今から伝える事が厳しい言葉だと言っているものだ。花は重ねた手を強く握りしめる。
「不祥事を起こした一族の娘が働いている店には今後一切行きたくない。早く解雇してくれ……というクレームが入りました。そのお客様はone sinの日本店の中でも指折りのVIPのお客様で、その方がもうone sinをご利用されないとなると、大変な損害になります」
「………そんな……」
「どうやら2日前に金城さんがいろいろなところでお話しているようで、噂は広がっています。私はこのような考えは断固として反対です。花さんは花さんなのですから、仕事の場をそんな理由で失うのは不当だと考えます。……ですが……」
「会社がよく思っていない、のですね」
「……その通りです。考えが出るまで裏方の仕事に徹して貰うことになりました。本日は、噂を確かめにくるお客様も多いと思います。そのため、本日はおやすみしてください。明日以降については、また私から連絡します」
「………わかりました」
岡崎が何かを伝えようとこちらを見ていたが、それよりも先に花は頭を下げると足早にその場から去った。
悔しさが溢れる顔を見られたくない。
泣いた顔など見せたくない。
one sinが入るビルを出るまで、花は下を向き必死に感情を押さえ込み、逃げるように去ったのだった。