花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「クマ様、どうしたの?大丈夫?」
「あ、あぁ………。紅茶を入れようと思ったんだが、上手くつかめなくてな。落とした。クマの手だと滑るな」
そう言って割れたガラスを拾おうとするクマ様を花は止めた。
「危ないから私がやるよ。アイスティーをいれるのも手伝わせて」
「危ないのはお前の方だろう。俺が破片の触っても怪我なんかしないからだだ」
「そういうのはいいから。クマ様は黙って待ってて」
勝手に動かないように、梯子でも届かないシンクの上にクマ様を移動させる。すると、「おい、卑怯だぞ!」と文句を言っていたが、テキパキと掃除をすませ、アイスティーを作り終える頃には、静かになっていた。
「…………おまえ、何かあったな?」
「………」
「父親絡みの事か?」
アイスティーをグラスに注いでいると、横から心配そうな声でそう問いかけてくる。
花はクマ様の方を向けないまま、琥珀色のアイスティーを見つめる。シンクにうつる影までも綺麗な色をしている。その茶色の影がユラユラと揺れている。
「…………犯罪者の子どもは、働いちゃいけないんだって。品位を下げるって事みたい」
「誰に言われた。まさか、スタッフか」
「違うよ。お客様。お得意様みたいで大切な顧客なんだって。だから、そんな人がイヤがる存在は、必要ないみたい」
こんな愚痴など言いたくない。
自分が弱っている姿をこれ以上見せるべきではない。
1人の人間に言われた事でクヨクヨしている女に見られたくない。
お父様を見送った時に強く生きると決めたのに。
クマ様もそれを応援してくれていたのに。
泣きたくない。
「笑うな」
「…………クマ様?」
「今は笑う必要がないだろ」
「…………だって笑うしかないじゃない!辛くても、頑張りたかったのに、頑張る場所さえもなくなるかもしれない!せっかく許される場所をもらったのに、またなくなっちゃうかもしれない。辛いときに笑わないと頑張れないじゃないッ!」
「もう泣いてるだろ…………」
「……………え」