花筏に沈む恋とぬいぐるみ
そう花が小さく笑うと凛とクマ様はきょとんとした瞳で見つめ、「まぁ、付き合いが長いからね」と微笑んだ。
やはり、クマ様はあの写真の男性なのではないか。そんな風に思いつつも、あの写真についてなかなか話し出せなかった。
クマ様は花には話したくないようだったので、自分からも聞き出しにくい。
「クマ様が言ったように、本気でここで働いてもいいんだよ。万年人手不足だったから嬉しい限りだよ。それに、花ちゃんなら大歓迎だよ。ね、クマ様」
「何で俺にふるんだよ」
「だって、クマ様と花ちゃん仲良しだから」
花がクマ様の手を握りしめている方に視線を向け、ニヤニヤとした表情で見つめている。
その顔色の意味をすぐに理解し、からかわれているとわかった花は咄嗟にその手を離した。
「「な、仲良しじゃない!」」
言い訳の言葉もクマ様とかぶってしまい、凛にますます「ほらー。仲良し」と、笑われてしまった。
花は恥ずかしさを隠しながら、小さく息を吐いた後に、落ち着いてから、ゆっくりと微笑む。
2人が提案してくれた事はすごく嬉しい。
この温かい店で、可愛いテディベアを作り過ごす時間はとても幸せだろう。
凛とクマ様でオーダーをもらったテディベアを、あーでもないこーでもないとアイディアを話し合い、作り上げていく。想像してだけでもワクワクしてしまう。
けれど、そこにクマ様がいなくなったとしても。
そこまで考えると切なさかが押し寄せてくる。
だが、どんな事があったとしても、花にとって、この場所は優しく甘くて大切な場所なのだ。
助けて貰えた、素直になれる、甘えられる唯一の場所。
そんな仕事場の仲間に誘われるのは、すごく恵まれた環境だろう。