花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「…………花浜匙は素敵なお店だと思うし、テディベアや洋服を作るのに興味がないわけじゃないす、むしろ好きだと思う。けど、もう少し頑張ってみたいの。まだ始めたばっかりだし、岡崎さんに必要としてもらえてうれしかったし。自分の今まで出会いで巡って来た縁だから。もちろん、自分のために。だから、………ありがとう。でも、いつかここで働いてみたい」
「いつでも歓迎する」
「それまでにつぶれないようにやるしかないな」
今はきっと最悪な状況だろう。
そんな職場で働くのがいい事なのかはわからない。けれど、まだ仕事を始めて1週間。認めて貰えないのは仕方がない。これぐらいでくじけてはいけない。
愚痴を言って、泣いて、悔しがった。
そして、自分の気持ちを立場を理解してくれる人がいる。
頑張って頑張って、もしダメだった時に「頼っていいよ」と言ってくれる居場所がある。それほどに力強い存在はないのだ。
だから、one sinという新しい自分の居場所に戻れるならば、歯を食いしばって頑張ろうと決めた。
それを凛とクマ様は心配しながらも応援してくれた。
けれど、そんな花の気持ちとは裏腹に、この世界は上手くいかないようだ。
夕方に花の携帯に1本の電話がかかってきた。それは岡崎支店長ではなく、本店のお偉いさんからだった。
「乙瀬さん。この状況が落ち着くまで出社は控えるように。最低でも1週間。その間に違う仕事が見つかったらすぐに教えてください」
色のない一定の引くトーンで事務的に告げられた言葉は、冷え切っており耳から入ったその音は花の心を凍らせるには十分なものだった。