花筏に沈む恋とぬいぐるみ
工房の方から電話音が聞こえてくる。
凛は急いでかけていくと、その場に残されたのは花とクマ様だけになる。何となく手持ちぶさたになって黙々と編み物を始めると、クマ様はなにも言わずにその様子を見つめていた。
没頭して編み物をする間は、嫌な事を忘れられる。余計なことを考えてしまうと間違えてしまうため、集中しないといけないのだ。
細いレース針を小刻みに動かして、白の花を咲かせていく。大輪のように1つの編みが終わったのを見て、クマ様は「うまいものんだな」と感嘆の声をあげた。
「クマ様、レース編みに興味あるの?」
「……まぁ、あるかな。だが、できるかは自信ない」
「やってみたらできるかもしれないよ」
「この手じゃできないだろ」
そう言って笑うクマ様は、コースターほどの大きさに出来上がった編み物にテディベアのふわふわとした手で触れていく。その手ではない、人間の姿だったころは、クマ様はどんな人だったのだろうか。
凛と一緒にあの工房でテディベアを作っていたのだろうか?あそこには2つのテーブルが並んでいた。そこ並んで、会話を交わしながら、時には討論をしながら、テディベア作りに励んでいたのではないか。
そして、四十九日の間、生前と同じように過ごそうとクマ様になって戻ってきたのではないか。
そう思うと胸が締め付けられる。
今こうして花と話しているクマ様はいなくなってしまう。海で父を焼いたときのように、どこにも吐き出せない、もう会えない悔しさと悲しさに潰れそうになることが、また経験しなければいけないのだろうか。
それが目の前の彼だなんて………。花はどうしても信じたくない。