花筏に沈む恋とぬいぐるみ
ぽたぽたと、足元にもソファにも水が落ちる。
それ以外は自分の呼吸しか聞こえない。静かな空間。
花は、男が持っていてくれた自分のカバンと紙袋を見つめる。そして、腕の中で抱きしめていたクマのぬいぐるみに視線を戻す。よくみると、このクマのぬいぐるみの形はいびつで、目の位置も左右少しずれているし、鼻もどこか変だった。身に付けている服も少しサイズが合っていないようでだぼっとしたつくりになっている。本当にこの店のテディベアなのだろうか?と手の刺繍を見るが、そこにはその店のマークである刺繍もガタガタで本当にこの花浜匙のものなのだろうか、と疑問に思ってしまう。けれど、店長だという男が持っていたのだのだから、きっとこの店のものなのだろう。
「どうして、君は川に落とされちゃったの?」
「………」
もちろん、そのクマは返事をする事も動くこともない。
失敗作だったのだろうか。だから、この川へと捨てた?
やはり、可愛くないと、綺麗じゃないと売り物にならないのだろうか。
綺麗だからって、何がいいのだろうか。
綺麗なものなんて………。
その少し不格好なクマのぬいぐるみを、見つめ考え込んでいると、花の背中に大きな柔らかいものがかかった。
いつの間にか戻って来たのか、男が大判のタオルケットを花にかけてくれていたのだ。
「とりあえず、これで体を拭いてね。今、お風呂沸かしてきたから……」
「え、お風呂なんて大丈夫です。私が勝手にやった事だから」
「もしかして、家が近いの?」
「いえ、電車で来ましたけど。タクシーで帰りますので」
「そんな濡れた体じゃ、タクシーも乗せてくれないと思うけど………」
「じゃあ、歩いて帰ります」
花はフッと男から視線を外し、髪を拭きながらそう言うとすくっと立ち上がった。