花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「これ、貰っていいか?」
「………」
「おい、花。聞いてるのか?」
「え、あ……うん?」
「これ、貰っていいのか?」
考え事をしてボーッとしていた花の顔をクマ様が覗き込む。花はハッとして、咄嗟に「うん」と返事をすると、出来上がったばかりのコースターをクマ様は嬉しそうに手に持ち、店内の電気にかざして見つめている。切り絵のように、細かい影がクマ様の顔に模様をつけていく。
そんな様子を見つめながら、花は内心では何故か鼓動が激しくなっていた。
(今、名前呼ばれたっ!しかも、呼び捨て……!)
いつもならば、クマ様は「おまえ」と呼んでいた。それなのに、いたって普通に名前を呼んできたのだ。それが、自分でも驚くほどに嬉しくて仕方がなかった。
想像していなかった事に花は真っ赤になる顔を誤魔化す事が出来なかった。
「ごめん、仕事になっちゃったから、出前注文しておいたよ。って、花ちゃん顔赤いよ?何かあった?」
「え、別に何も」
「このレース編み貰った」
「えぇ!ずるいなー!俺も欲しかったなー。花ちゃん、俺にも編んでー」
「これぐらいなら、すぐ完成しますから」
その後、3人は凛が注文してくれた中華を食べながら(クマ様は、本を読んで待っていた)過ごし、その後はそれぞれ作業をする事になった。凛は工房で仕事をしており、クマ様も「工房で寝る」と言ってついていった。
花は結局また泊まらせてもらうことになり、前回も泊まった空き部屋でレース編みをして過ごす事になった。
無心のままに編み物をしたかったけれど、夜は一向に進まずに手が止まったり、ミスをしてやり直したりと、散々な出来になってしまった。
考える事は沢山ある。