花筏に沈む恋とぬいぐるみ
もし仕事を辞める事になったらどうすればいいのだろうか。
貯蓄はあるとしても、何もしないで生きていけばいつかは底がつきてしまう。母親はいるとしても、気持ちがふさぎ込んでおり、きっと花を快く迎えてくれることはないだろう。それに新しい仕事を探すにしても、乙瀬の名前からまたすぐに止めさせられてしまう事があるのではないか。
そんな不安が押し寄せてくるのだ。
このまま社会に出て働けないのだろうか。そう思うと怖くて仕方がないのだ。
そして、クマ様の四十九日の奇。
いつまでのタイムリミットなのか。本当にお別れしてしまうのか。
この2つの事を頭の中でぐるぐると考えても、解決策など浮かんでくるはずもなかった。
ハーッと大きくため息をついた後、花は眠れるはずもなかったので、水を貰おうと1階に降りる事にした。
すると、暗い廊下に一筋の淡い光りが差し込んでいる場所があった。工房のドアが微かに開いているのだ。
凛はまだ仕事をしているのだろうか。
花はドアを開けようと手を伸ばす前に、工房の中が見えてしまう。そこには、凛とクマ様が話をしながらテディベア作りをしている。
「そこは……そう、そんな感じ。もう少し曲線を緩くした方が顔立ちがしっかりする」
「……難しいな。こんな感じか?」
「クマ様の手じゃ難しいよね。でも、大体そんな感じだよ。まぁ、普通に出来るんじゃないかな?」
「不安だな」
2人の会話はとても不思議だった。
クマ様が戻る?それは、四十九日の奇ではないという事なのだろうか。それ以外にもテディベアの中に魂が入り込み、自由に動けるのだろうか。
そんな事がありえるのかは、わからない。
けれど、クマ様と離ればなれにならなくてもいいのだ。それだけでも、とても嬉しく心が弾んだ。
「そんな事、言わないで。俺がいなくなったら、どうするの………」
「……………」
「………ぇ」