花筏に沈む恋とぬいぐるみ
「もう残された時間も少ない。花ちゃんに話してもいいよね。俺は、花ちゃんにも見送って欲しいよ」
「………ッ」
四十九日の魂の見送り。
その言葉は、1週間前の夜の海岸を思い出させるのには十分で、花は息が止まりそうになる。
「ごめんね。花ちゃん、辛い思いをさせて」
「凛さんが謝らないでよ。凛さんのバカ……」
「ごめん………」
凛の謝罪の言葉など聞きたくもない。
花は、凛に「謝んないでってば」っと言いたくなったが、きっとその返事も「ごめんね」何だろうな、と思い、それ以上は何も口にしなかった。
真夜中の工房の光は、琥珀色で優しい。
けれど、その優しさが「これは現実だよ」と伝えているようで、残酷だなとも思えてしまう。
花は凛の隣の作業用の椅子に座り、クマ様は2人の間のテーブルの上に座っていた。どちらを向くでもなく、ただ正面を見つめていた。
凛は花の方にしっかりと体を向けて話始める。その口調はいつもと変わらない。悲しいほどに優しい。
「俺が死んだのは今から40日に前だよ。病気でね。病気が見つかってからは半年で。あっけないものだった」
「半年……」
「そう。その時間はあまり記憶にないんだ。ずっと入院していてね。意識も朦朧としていたから。生きていたのかって言われると怪しいぐらいだよ。お見舞いに来てくれていたのは覚えているんだけど、あまり話せる状態ではなくてね」
「少しは話した」
「そうか。ごめん。あまり記憶になくて。俺は、両親は幼い頃に亡くなっているし、育ててくれた叔父もなくなったから、見舞いにきてくれたのは嬉しいのは覚えているよ」