花筏に沈む恋とぬいぐるみ
自分の家族の話よりも、新しい職場の悩みよりも、自分の時間を大切にしてほしかった。
生前の最後は病気で苦しんでいたのならば尚更の事だ。
雅と凛の時間を邪魔をしてしまったのではないか。それが、花には申し訳なくて仕方がなかった。
雅は四十九日の短い時間を大切に過ごしたかったのではないだろうか。それを、花の時間に使わせてしまった。
「俺は花ちゃんに会えてよかったよ。凛を助けて貰えて、お父さんの四十九日の奇を見れたのも、よかったと思ってるし。凛と花ちゃんと店で過ごすのが楽しかったんだ。まるで、ずっと昔から一緒みたいだなって。だから、残りの時間も花ちゃんと凛の3人で過ごしたよ」
「雅さんのバカ」
「花ちゃんって本当に泣き虫なんだからー」
「………こんなの泣くしかないじゃないっ!」
「………」
どうしてこの店では涙が出るのだろうか。
悲しいことが多いから?それもあるのかもしれない。けれど、泣くほど悲しいことがあるのは、大切なものがあるから。
花にとって、この店と雅と凛はとても大きな存在になっていた。
だからこそ、残りの時間が終わってしまい、あの悲しくも美しい炎を見なければいけないことを嘆くしかなかった。