棗ちゃんはステキな恋がしたい
坂田の突拍子もない提案に、思考が停止する。
坂田と?
「なんで?」
「予習してみるんです」
予習……?
「疑似体験ですよ。もちろん私が必要以上にお嬢に触れることはありません。寸止めです」
「すんどめ?」
「うっかりお嬢に手を出した日には。命はないでしょうから」
いやいやいや
坂田と練習してどうするの。
「恋に予習なんていらない。いつか、ホンモノのカレシと胸キュンいっぱいのデートをするの!」
「その言葉だけで親父さんあの世送りにできちゃいそうですね。今のは報告しないでおきましょう」
「本気だよ。わたし」
クラスの子が恋バナをしていると、わたしまでドキドキしちゃう。
「すきなひとって。どうやれば、できるんだろう」
運命的な出会いが欲しい。
料理部は男の先輩いないし……
「そんな風に考えてるうちは、できないんじゃないですかね」
「なによ」
「よく言うじゃないですか。恋は、するものじゃなく。落ちるものだと」
……落ちるもの?
「無理に始められないように。止めようとしても止まらないものなのですよ」