販売員だって恋します
それを見て、由佳の胸の奥がきゅっとする。
ん……?
なに今の……。
けれど、由佳はそれが何か気付かなかった。

帰り際に外で待っている、と言われデパートの外で待ち合わせをする。
由佳が業務を終えてから、従業員出口を出ると彼はそこにいた。

相変わらず、一部の隙もないスーツ姿で背筋を綺麗に伸ばして立っている姿は、極めて目立つ。
それに眼鏡をかけた整った容貌に、影のある雰囲気なのである。

──それは、モテるわよね……。
ちょうど買ったばかりのワンピースがあったので、今日着てきた私服ではなくて、そちらに着替えてきた。
お出かけかな、と思ったからだ。

「お待たせして、すみません」

そんな格好だとは思っていなかったのか、由佳を見た彼は少し目を見開いた。

「綺麗ですね、楠田さん。」
「ありがとうございます。」

どこになにをしに行くのか、そういえば確認していなかったけれど、一応化粧もきちんと直してきて、それなりに華やかな雰囲気にはなっているはずだ。
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