販売員だって恋します
「靖幸さん……。」
その名前呼びの親しさに男性は驚いた様子だ。
「すみません、少し失礼します。」
神崎はそっと由佳の手を取り、身体を自分の方に引き寄せる。

由佳は疲れたのか、少しだけ神崎に寄りかかるようにして、軽いため息をついた。

「ありがとう、靖幸さん。久々なので。やっぱり、社交は大変ですね。」
「立派にやってくれていますよ。こちらこそありがとう。」
「いえ。お役に立てて良かった。」

そう言って微笑んだ由佳の動きがぴたり、と止まる。

その目線の先に、グレーのスーツの男性がいた。

敢えて、地味めのスーツを選択しているところを見ると、直接の招待客と言うよりも、招待客の連れと見た方が良さそうな人物だ。

隙のない立ち姿、綺麗にスーツを着こなして、きっちり整えた髪とフレームレスの眼鏡。

理知的な雰囲気のスラリと背の高い男性だった。怜悧な中にも妙な色気のようなものがある。

何者だ?
「ご存知の方ですか?」
「あ、はい。同じ会社の……」

同じ会社?
「化粧品?」
< 102 / 267 >

この作品をシェア

pagetop