販売員だって恋します
いつもと変わらないその表情で、こんにちは、なんて挨拶して……。

「こんなところで会うなんて、奇遇ですね。」
本当に、いつもと変わらない。

「そうですね。大藤さんも。」
「私は、翔馬さんのお供ですが。」
苦笑する様子さえ。

「ゆーちゃん?」

「ゆーちゃん……」
神崎が呼ぶのに、少しだけ目を見開いて、そう繰り返した大藤だ。

少しだけ場を離れていた神崎が戻ってきて、由佳の肩に手を置く。
「僕の連れですが、どうかされましたか?」

にこり、と笑って大藤は返す。
「いえ。会社の知り合いでしたので、奇遇ですね、と声をおかけしたんです。」
「ああ、成田さんの……。」

神崎は由佳とどういう関係なのか、聞きたかったのだが、そこはさらりとかわされたような気がする。

「神崎様ですよね。ぜひ成田を紹介させてください。翔馬さん。」
先程、一瞬空気が冷えたような気がしたのだが、そんなことはなかったかのように、大藤は感じの良い笑顔を向ける。
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