販売員だって恋します
「すみません、不躾《ぶしつけ》でした。お時間を頂きたいんです。」
「分かりました。」

大藤は近くのホテルのラウンジに、神崎と向かうことにした。

向かい合って座ると、確かに彼からは育ちの良さを感じた。

翔馬とも共通するもの。
──言うなれば、余裕のようなものか。

「なんでしょう?」

由佳のことだと予想はついたが、自分から言うつもりのない大藤は、用件を尋ねる。

「楠田由佳さんのことです。」
やはりか……。

大藤はあえて、分かるようにため息をつく。
「あなたには関係ありませんよね?」

「正式にお付き合いを申し込むつもりです。」

大藤は、立ち上がった。
これ以上、ここにいるつもりはないからだ。

由佳の気持ちは、ハッキリしている。
あれが、嘘だとは思えない。

あの表情も、声も、そしてキスだけで立っていられない、あの様子も。
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