販売員だって恋します
そう言われてみれば隙のない感じがするし、きっちりしていそうだ。

「お客様のご案内なんか、されます?」
「あまりしないですね。秘書なんて裏方ですから。役員とお約束のある方をお迎えに出たり、役員が即時対応できない時などは、たまに対応したりはしますけど」

なるほど。では、その時に姿を見かけたのだろう。

「なぜです?」
「あ、以前一度1階で姿をお見かけしたなあと思いまして」
「店頭に出ることはほとんどないですよ」

さらりと彼は流す。
仕事のことはあまり話さないのかもしれない。
確かにそうか、と思う。

秘書は役員に付ききりのことも多いし、社外秘の情報もあるのだろうから、あまり聞き出そうとすると失礼になるかも。

由佳はそう思って、仕事のことはあまり聞かないようにしようと思ったのだった。

「大藤さん……」
「久信さん、と呼んでもらえますか?今日は」

「久信さん……?なぜでしょう?」
「弊社の取引先に妙齢のお嬢様がいらっしゃるとやらで、紹介したいと言われたのですよ。けど私は興味ないので。かと言って興味がない、とお断りする訳にもいかないですから、交際している方がいますと先方にお伝えしました」
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