販売員だって恋します
「彼女の気持ちがどうなのか、まず、確認されたらどうです?それに、あなたは彼女のことをなにもご存知ないでしょう?」

大藤に淡々と言われて、思わずといった感じで立ち上がった神崎に、大藤は今度は耳元で艶然と囁いた。

「由佳はね、すごく感じやすいんですよ。指で身体を辿った時の、甘い声、堪らない。あなたにも聞かせてあげたいですね。」

がつっと襟元を掴まれたので、そっと腕を外す。
「ここでは、まずいでしょう?あなたも、お知り合いがいるのでは?」

場所はホテルのラウンジで、神崎は有名なホテルグループの御曹司だ。

「なんて人なんですか。」
「どうとでも。」

そもそも、大藤とは何の関係もない。

悔しそうな顔の神崎を、その場に置いて、大藤は、今度こそ背を向けて、その場を立ち去った。

──しかし、なぜあんなに、あの神崎の御曹司は、由佳にこだわるんだ?

わざわざ大藤のことを調べて、直接牽制にやってくるくらい。
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