販売員だって恋します
「さらに、怪しげな噂。」
水谷が声を潜めた。
「怪しげ?」

「『くすだ』には家出した長男がいるって話。子供のころには姿があったらしいが、最近は姿を見ない。なんせ、表舞台には出てこない世界の話だからな。死んだのか、なんなのか、実在するのかしないのかも、不明。でも、格式のあるこういう古い店の、こういう話ってなんかいいよなー。」

「バカか、お前は。」

ロマンがあるとか言っている水谷に、大藤は遠慮なく鼻で笑ってやった。

「で、興味の出た俺は、もうちょい詳しく確認してみた。」

水谷のこういうところだ。
クライアントの依頼の1歩2歩、先を行く感覚。

「聞きたいか?」
「聞きたいな。」

「では、理由を言え。」
そう言って、まっすぐ見つめてくる水谷を、大藤は冷静に見返す。

苦笑して返した。
「ムキになるなよ。」
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