販売員だって恋します
「お前から、そんな言葉がでるとは思わなかったからな。彼女?女なんて寝れればいい、と切って捨ててきたお前が?」
なんだか、若干人聞き悪いな。

「由佳は特別なんだ。」
「だろうな。」

「理由を言っただろう。聞かせろ。」
「なんだか、一気に毒気を抜かれた感じだよ。
隠す気は失せた。」
力の抜けたような顔の、水谷が話し始める。

実際に『くすだ』には、息子がいる。
話からするとそれは、由佳の兄のようだ。

とても出来た人で、子供の頃から亭主としての教育を受け、実際に座敷に挨拶にも出ていたらしい。

それがぱったり、姿を見せなくなったのは、

『書き置き一つで、家を出て行ったから。』

「それまでは、後継として、問題なく『くすだ』は安泰だと思われていた。」
「家出……。」

神崎にそれなりの伝手があれば、今、聞いたことくらいは、分かっていることだろう。

神崎は仕事がきっかけでも、由佳を見初めて、欲しくなって、執着している。

今の経営状態が不明で、斜陽に傾きつつある『くすだ』にも。
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