販売員だって恋します
「それで終わり、じゃないんですか?」
「敵もさるものでして、そんな相手はいないのは確認済みだと言うんですよね」

「それは、手強いですね。」
「水掛け論になりそうだったので、ではお付き合いしている方を食事に同席しますと伝えたんです」

名の知れた老舗デパートの秘書室所属で、役員秘書。
見た目も悪くないし、確かに妙齢とやらのお嬢様に紹介したいと思うのも無理はないかもしれない。

ソフトな人当たりだし、所作も綺麗で洗練されている。

けど、
「では、あの彼女でよかったのでは……?」
なんと言っても彼女は、受付嬢である。

見た目もおそらくはお家柄も、申し分はないはず。

「本気ではないのに、本気になられても困りますから」
大藤はふっと目を伏せて、眼鏡を押し上げる。
その一瞬で、彼の真意はつかめなくなってしまった。

けど本気でそう思っているんだろうなあ、ということは分かる。

「身体の相性が良かっただけに、残念ではありますけどね」
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