販売員だって恋します
「ありがとうございます。」
大藤は目を細めて、素直に甘える由佳を微笑ましく見つめる。

──それにしても、なりふり構わず来ているな。
神崎の本気を感じて、大藤は口元に笑みを浮かべる。

良いですけどね。
知りませんよ、どうなっても。

父からの指定があった日にちに、由佳は『くすだ』に向かった。

一番奥の部屋に通されたが、今日は料理は出ていない。

部屋には、少しだけ硬い表情の神崎と、いつもと変わらない父の姿だ。

「お久しぶりです。」
入り口で頭を下げると、神崎も頭を下げた。

「なぜ由佳を?仕事の話しではないのかな。」
「今日は違います。仕事の件とは全く関係なくて。」

「聞きましょう。」
「はい。」
そう返事をして、神崎は楠田に向き直った。

「由佳さんと、結婚を前提にお付き合いさせていただきたいんです。」
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