販売員だって恋します
由佳はこくり、と頷いた。
「靖幸さん、お気持ちはとてもありがたいです。でも……」

靖幸は、由佳の言葉を遮った。
「分かりました。でも……なんですね」

──本当に、本当に由佳が好きだった。
なりふり構わないくらい、夢中になってしまった。
どうしても、欲しくて。
けれど、手を離さなくてはいけない。

正座をしていた靖幸が、膝の上で拳を握る。

「申し訳ありませんでした」
靖幸は畳に手をついた。

そして頭を下げる。
「今日の僕の発言については、由佳さんの意思がハッキリしている以上、撤回します」

「神崎さん」
楠田が立って、頭を下げている靖幸に歩み寄る。
そっと、靖幸の肩を撫でた。

「そんなに由佳を好いて下さって、ありがとう。親としてとても嬉しい。頭を下げる必要はありません」

そして、雅己の方を見る。
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