販売員だって恋します
「僕は僕の料理人に自信があります。けど、お父さんはどうでしょうか?」

「お前が自信がある、というのなら間違いはないだろう。もし、精進する気があるのなら、一緒にやろう」

絋はため息をつく。
「では、今ここではっきりさせておきます。その人は僕の恋人です。それでも、構いませんか?」

挑戦的にきらりと光る絋の瞳に、一同は一瞬呑まれたが、いちばんに口を開いたのは意外にも楠田だった。

「お前は公私混同するのか?」
「しません」

「ならば、問題はないだろう。いかがですか?神崎さん。止めておきますか?」

「いいえ。今の時代にそんな差別はしません。ましてや接客業です。偏見を持つべきではないことは、身に染みて理解しています。」
「……だそうだ。」

楠田はそう言ってくるりと絋を見た。
絋の方が困ったような顔をしている。

「持ち帰って相談します。急すぎてついていけない。それに、許されない……と思って……」
少しづつ声を発しながらも、絋の頭がどんどん落ちていく。
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